展覧会 · Tina Kim Gallery · Chelsea
キム・チャンヨル、ティナ・キム・ギャラリーで「回帰」展
水滴を描き続けた韓国出身の画家キム・チャンヨル(金昌烈)の個展が、チェルシーのティナ・キム・ギャラリーで11月5日に開幕。1980年代から2010年代の「回帰(Recurrence)」シリーズと水滴絵画を紹介する。
文・NBT編集部 · 2026-10-17

ニューヨーク・チェルシーのティナ・キム・ギャラリーは、2026年11月5日から12月19日まで、韓国出身の画家キム・チャンヨル(金昌烈、1929–2021)の個展「Recurrence」を開催する。同ギャラリーでの個展は3回目。約50年にわたり、光を宿す超写実的な水滴を描き続けた画家の、1980年代から2010年代にかけての作品で構成される。この時期に作家は、より触覚的な素材感を取り入れ、さまざまな支持体を試し、画面の規模も大きくしていった。
キム・チャンヨルは1929年、現在の北朝鮮にあたる平安南道の孟山に生まれた。17歳で日本の植民地支配からの解放後の混乱と分断のなか南へ逃れ、ソウルに定住。ソウル大学で絵画を学び、1950年代にはハ・ジョンヒョンやパク・ソボらとともに、韓国のアンフォルメル運動を牽引した。暗く土色の画面に傷や亀裂が走る初期作は、戦争と避難の傷跡と結びつけて語られてきた。1965年には恩師キム・ファンギの勧めでニューヨークへ渡り、ロックフェラー財団の奨学金を得てアート・スチューデンツ・リーグで版画を学ぶ。オプ・アート、ポップ・アート、ミニマリズムに触れ、ナム・ジュン・パイクとも知り合った。1969年にパリへ移り、2017年に韓国へ戻るまでほぼ50年を過ごした。
水滴のモチーフは偶然から生まれた。パリ郊外の仮設アトリエで、キャンバスの裏に水をはねかけたところ、光を受けた滴の姿に心を打たれ、その儚い存在を絵画で捉えようとしたのである。1973年にパリのノール・インターナショナルで開いた初個展で、水滴は作家の中心的主題として示された。ただし水滴は単なる錯視の技巧ではなく、朝鮮戦争で負った暴力と喪失の記憶に向き合う手段でもあった。批評家イ・イルへの手紙で作家は、水滴を描く行為を、すべてを透明へと溶かし無に帰すことであり、自我の消滅を目指すものだと記している。道教や禅の思想も、反復と浄化としてのこの絵画観を支えた。
展覧会の中心は、1980年代半ばに始まる「Recurrence(回帰)」シリーズだ。新聞紙の活字を背景にした水滴の作品から発展し、六世紀の書物で書字の手習いにも使われた「千字文」の文字が描かれる。幼少期に祖父から書を教わった際に出会った書物であり、作家個人の記憶と代表的なモチーフが結びつく。文字が活字のように整然と並び水滴が鮮明に浮かぶ作品もあれば、絵具の層に覆われ、かすれ、断片化して抽象的な地になる作品もある。読むものから見るものへと文字が変わっていく過程が追える。
会場には2000年代と2010年代の水滴絵画も並ぶ。生成りのリネンに水滴があふれる大作2点や、1972年の最初期の水滴作品「夜の出来事」に連なる「Nuit」2点が含まれる。暗い地に浮かぶ水滴は、夜の静けさや激しい雨の気配を伝え、存在と不在の緊張を高める。2025年にはソウルの国立現代美術館(MMCA)で大規模回顧展が開かれた。作品はM+、ポンピドゥー・センター、ハーシュホーン美術館、東京都現代美術館、東京国立近代美術館などに所蔵されている。
- 状況
- これから
- 会期
- 11月5日 – 12月19日
- 作家
- Kim Tschang-Yeul
- 会場
- Tina Kim Gallery
525 West 21st Street, New York, NY
Google マップで開く - 見どころ
- 千字文の文字と水滴を組み合わせた「Recurrence」シリーズ(1980年代半ば以降)
- 「Waterdrops」(2000年)油彩、285.8×385.1cmの大作
- 暗い地に水滴が浮かぶ「Nuit」(2019年)など夜の連作
- 砂、韓紙など多様な素材と支持体への展開





